読み物・忍足1回読みきり3
ボクとキミでナゾナゾごっこ(謎)。
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差し出せるモノ
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最近話すようになった、先輩がいる。
伊達めがねを掛けていて、関西弁を話して、ほんのちょっと大人な感じのする人。
「忍足先輩、おはようございます」
「あー、おはようさん」
私は図書委員、先輩はよく本を借りにきて、感想をよく聞かせてくれる。
そんな些細な事が、最近とても楽しみだったりする。
「この本、どうでしたか?」
「そやね、うーん」
「?」
「長くなるから、昼休み屋上で話すわ、まっとるで」
あわただしく図書室を出て行く先輩を見送り、私は返された本を眺めてみた。
ちょっと気恥ずかしいタイトルの本、恋愛小説の本。私は何気なくその本を借りて教室へ向かった。
お昼休みに屋上へ向かう。そんなわざわざ長い感想を聞かせてくれるのだろうか?私は若干不思議に思いつつ、それでも昼休みに先輩と一緒に過ごせることが嬉しかった。
屋上のドアを開け、周りを見渡すと隅のほうで校庭を眺める先輩の後姿が見えた。黒い髪の毛が風で揺れていて、私はそれをボンヤリ眺めていた。
「ちゃん、いつからおったん?」
「あ、すみません」
見とれていました、なんてとてもじゃないけど言える訳が無く私は軽く頭を下げて先輩の横に向かった。
「お待たせしました」
「そんな待っとらんから大丈夫」
先輩がちょっと低い声で優しく笑う。1つしか歳が離れていないはずなのに、だいぶ大人に感じる。
同じクラスの男子とはちょっと違う感じがして、この声と笑顔が来ると私の頭の奥が少しボヤっとする。
「ちゃん熱でもあるん?顔赤いで」
「あ、いや、えっとで、本の感想は?!」
赤い顔の私をからかっているのか、先輩の指が私の額をコツンとつついた。
「せやな、なかなか感慨深い話やった」
「そ、それだけですか?」
「そ」
唖然とする私を見て、クスクスと先輩が笑う。
「感想はここまで。こっから質問タイムや」
「え?」
「この本の主人公の子な、自分が惚れた相手に『俺の為に差し出せるものはなんだ?』って聞かれるねん」
「は、はぁ・・」
「そこで質問。ちゃんはどうなん?」
「え?」
屋上に強い風が吹いた。
夏が終わった10月の風は少し肌に冷たさを感じる。
私は冗談かと思い先輩の顔を見直した。
「答えて欲しいな、と思ってな」
そう言う先輩は、いつもより少しだけ真面目な表情だった。
「私は、そうですね・・・」
「うん」
「私は・・・」
屋上にまばらにいる生徒の声と校庭からの声が、私の頭の中で響いている。
目の前で私の答えを待っている先輩が、まるでテレビの中の光景の様に感じた。
「あーそんな困らせる気なかったんやけどな、ごめんな」
先輩が苦笑しながら私の頭をポンと軽くたたいた。
「ごめんな、じゃぁ俺用事あるんで」
そう言って後ろを向いた先輩の右腕を、無意識に私は掴んでいた。
掴んで、引っ張っていた。
「ちゃん?」
先輩はビックリして、私の顔を覗き込んだ。
耳の辺りまで熱くなったのが、自分でも分かり、それがまた恥ずかしさを増してさらに顔を赤くしていた。
「私が差し出せるものは、私が、先輩に差し出せるものは」
「うん」
「大切に想う気持ち・・・です」
いつの間にか、掴んだ手が先輩の手の中にあって、私は言葉と共にそれを少しだけギュっと握った。
耳の奥でドクドクと鼓動が聞こえて、先ほどまで聞こえていた周りの声は何一つ聞こえてこなくなった。
「なかなかいい答えが聞けたで」
「え?」
「大丈夫、それで十分やし」
そう言って先輩はいつもよりずっと優しい笑顔で、私の手を握り返した。
★end★
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最近話すようになった、先輩がいる。