読み物・忍足1回読みきり2

似非関西弁は見逃してください。

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  • 電車の中・忍足視点

    • 毎朝乗る電車に必ず居るクラスメイト。
      朝早い車内には、いつも大抵俺とその子位しか居ない。教科書に眼を落とし、じっと座席に座っている。

      「なぁ、さんってうちのクラスにおるやろ?」
      「あー、ちゃん?」
      「そそ、さんって運動部なん?」
      「いやぁ、文化部だろ、確か」

      朝練でもないのに、毎朝早く通学。
      時折車窓から入る朝日に、白い肌が透けるように見える。
      髪が前に流れるたび、細い指で耳に掛ける。
      毎朝、そんな光景をぼんやり眺める。

      「今日は席替えするぞ」
      「なんや、急だな」

      担任が無造作に黒板に書いた席順、俺の右横には、の文字があった。

      さん、よろしくな」
      「え?」

      俺の声にビックリしたような顔を向けてくる。
      毎朝見かける君に、いつの間にか勝手に親しみを感じていたのだと気がつく。

      「いつも朝同じ電車やん、気がついてなかったん?」


      少し意地悪くそんな言葉を掛けた。
      君は少しうつむいて、顔を桃色に染めていた。

      「やっと声かけれたわ。さんなかなか近くに来ないから」
      「そ、そおだった?」
      「避けられてるんかと思うわ、流石に(苦笑)」

      思わず、思っていた事が口から出ていた。

      やっと、本当にやっと声を掛けられた、多分そんな気持ちがつい出てしまったのだと、自分で自分がおかしく思えた。

      苦笑をしていると、君は思いもよらない言葉を投げてきた。

      「・・・今度は、隣に行ってもいい?」


      ビックリして君を見ると、机を見たままの君はギュっとペンを握っていた。
      細い通路を挟んで、君の気持ちが少しだけ伝わってきたような気がした。

      「いつでもどうぞ、さん」


      ★end★

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